雪山トレッキング小屋泊おすすめルート8選
PEAKS 編集部
- 2019年11月19日
INDEX
一気に荷物が増える雪山こそ、少なめの荷物でラクに登って、暖かくすごすせる小屋泊のありがたみが身に染みる。いつもはテント泊が定番という人も、冬はぜひ選択肢に入れてみよう。
硫黄岳[長野]
烈風をかわしながら、広大な頂へ
- レベル:中級
- 歩行時間:11時間
硫黄岳は、いつも強い風が吹く。それがさらに冬ともなれば、寄りかかれたり、乗って飛べるんじゃないかと思うくらいの風が吹く。まさに突風というやつである。
そんな風が吹き抜けていくときは、もう身を屈めてやりすごすしかない。一瞬風が弱くなった隙に歩みを進め、また突風が来たら地面に這いつくばるか、岩陰に隠れるか。もう、気分はノルマンディー上陸作戦である。
「なんでそんなことしたいの?」と言われても困る。そもそも、雪山なんて「なぜそんなことを?」の塊ではないか。でも、年に何度かそんな不条理を味わうことは、僕は健やかな精神を保つために必要なことだと信じている。
幸いにも硫黄岳は山としてはなだらかで、それほど危険箇所はない。まるで戦場なのに!奇特にもそんな気分を味わってみたいという人は、ぜひ行ってみてほしい。
雪景色で浸かる本沢温泉も、また格別だ。
アドバイス
地形的にはとくに危険はないが、とにかく稜線上は冬季は常に強風が吹くと思っていたほうがいい。ピークに向かう際は防風・防寒対策を怠らないように。天気も荒れることが多いので、ホワイトアウトにも気をつけること。
アクセス
厳冬期は本沢入口まで車が入れないので、稲子湯からしらびそ小屋経由で向かうのがおすすめ。マイカーの場合は稲子湯の駐車場を利用(有料)。小海線小海駅から稲子湯までの町営バスは11月〜4月は運休となるので注意を。
レコメンダー フォトグラファー/ライター 三田正明
写真と原稿書きを軸に活動中。現在は「山と道JOURNALS」の編集長も務める。山行スタイルはウルトラライトハイキング。
雲取山[東京・埼玉・山梨]
冬でも活気あふれる東京都の最高峰
- レベル:初級〜中級
- 歩行時間:11時間
東京都最高峰の雲取山は冬でも多くの登山者が訪れる。もっともメジャーな鴨沢からの往復ルートは、雪もたいてい登山者に踏まれているので歩きやすい。
このルートは一気に山頂を目指す人も多いが、日が短い冬は途中の七ツ石小屋に宿泊するのがおすすめ。小屋からは奥多摩の山並みから昇る朝日も眺められる。
ルートの大半は樹林帯歩きだが、クリアな青空に浮かび上がるカラマツやブナの樹形が美しく飽きない。展望が良いのは七ツ石山から雲取山までの石尾根。富士山を眺めながら歩ける。
アドバイス
アックスは不要だが、クランポンは必携。危険箇所はほぼないが滑落事故は起きているので油断は禁物。七ツ石小屋は素泊まりのみで予約制。HPには混雑予想が掲載されるので、事前にチェックしておこう。
アクセス
公共交通機関の場合、奥多摩駅から路線バスで約35分。マイカーの場合、小袖乗越の駐車場が便利。傾斜の強い道なので、真冬は冬タイヤ必須。下山後は奥多摩湖畔にある「のんきや」のラーメンがおすすめ。
レコメンダー フォトグラファー 矢島慎一
小誌で「そろそろ本気で撮るぜ山写真」連載中。埼玉県秩父市出身で奥秩父エリアはホーム。現在、丸の内朝大学で写真クラスの講師も務める。
大菩薩嶺[山梨]
縦走で朝夕の美しい景色を堪能
- レベル:初級
- 歩行時間:8時間
首都圏からアクセスが容易で、冬でも日帰り、小屋泊のどちらでもプランニングしやすい大菩薩嶺。もし小屋泊で楽しむのであれば、稜線を縦走し牛奥ノ雁ヶ腹摺山まで歩き、大菩薩湖の近くのペンションすずらんまで歩くコースがおすすめ。
南アルプスに沈む夕日、東京方面から昇る朝日が作り出すモルゲンロートなどを存分に堪能しよう。稜線上は賽ノ河原、金沢小山、牛奥ノ雁ヶ腹摺山など展望ポイントが多数あり、空気が透き通った冬は、天気が良ければくっきりとしたシルエットの富士山も望める。
アドバイス
アックスは不要だが、足元は状況によってチェーンスパイク、6〜12本爪のクランポンなどが必要。とくに春先に雨が降ったあとは凍結しやすいので注意。なお介山荘は基本予約制なので、かならず事前連絡を。
アクセス
大菩薩峠登山口までは塩山駅からのバスでアクセス。下山口のペンションすずらんは冬期は路線バスが通らないので、タクシーで甲斐大和駅へ。余裕があれば湯ノ沢峠、天目山温泉まで足を延ばせばバスが利用可。
レコメンダー Mt.石井スポーツ登山学校 校長 天野和明
日本を代表するアルパインクライマー。Mt.石井スポーツ登山学校校長として各種講習を手がけるほか、地元、甲州市の観光大使も務める。
天狗岳[長野]
2日間で充実感たっぷり、八ヶ岳おいしいとこ取りコース
- レベル:中級
- 歩行時間:8時間
なだらかな森歩きの北八ヶ岳、険しい稜線でいかにも雪山という雰囲気の南八ヶ岳。位置的にもイメージ的にもその中間に位置するのが天狗岳で、黒百合ヒュッテまでの静かな樹林帯、中山峠から先の稜線歩きと、1回で2度おいしいのがこのルートのポイント。
初日は行動時間に余裕があるので、早めに黒百合ヒュッテに入り、こたつで温まってのんびり。翌朝、装備を整えたら中山峠を経由して東天狗へ。東天狗、西天狗ともに山頂の展望は抜群。下山後は登山口の渋の湯で身体を温めてから帰ろう。
アドバイス
強風が吹くことの多い八ヶ岳の稜線。中山峠から先は木もまばらになっていき風の影響を受けやすくなるので、風が強いときは慎重な行動、判断を。気温もかなり低くなるので、とくに手や顔の防寒対策は万全に。
アクセス
渋の湯までは土日祝、年末年始は茅野駅からの路線バスが運行(平日は運休)。所要時間は約50分。マイカーの場合、諏訪ICか諏訪南ICから渋の湯まで約40分。渋の湯の駐車場利用時は事前に料金を支払う。
レコメンダー アウトドアライター 山畑理絵
アウトドアショップ勤務後、現在はライターとして雑誌やWEBなどで活躍中。ハーフビルドした小さなログハウスが仕事場。
赤岳[長野・山梨]
実力が試される雪山登山のメジャールート
- レベル:中級〜上級
- 歩行時間:10時間
雪山の超メジャールートだが、十分な経験がないと簡単に足を踏み入れては行けない場所。だが北アルプスなどに比べると圧倒的にアクセスしやすく、営業小屋も整っているので、チャレンジしやすい環境でもある。
赤岳へは文三郎尾根、地蔵尾根と周回する人が多いが、地蔵尾根は急傾斜、細いリッジがあり、文三郎尾根よりもテクニカル。実力によっては文三郎尾根ピストン往復も検討しよう。
下山は南沢経由が最短だが、中山展望台を経由してあらためて赤岳の雄姿を目に焼き付けて帰るのがおすすめ。
アドバイス
基本的に八ヶ岳一帯は気温が低く、稜線上は強風にさらされる時間も長いので凍傷対策はしっかりと。また地蔵尾根上部は積雪状況によっては雪崩を誘発する可能性もあるので、とくに降雪時の行動は慎重に。
アクセス
美濃戸口へは土日祝、年末年始に茅野駅からバスが運行。マイカーの場合は基本的に美濃戸口の駐車場を利用する。四駆で冬タイヤ、チェーンを装着すれば、路面状況次第ではさらに上の美濃戸までアクセス可。
レコメンダー オクトス金沢店 スタッフ 西村崚太郎
ショップでの販売業務だけでなく、WEBサイトのコンテンツ制作などマルチに活躍。カナダの登山学校を卒業しており、講習会の企画・運営なども行なっている。
鳳凰三山・地蔵岳[山梨]
冬しか見られない雪化粧のオベリスクを目指す
- レベル:中級
- 歩行時間:12時間
冬山のアルプスといえばとにかく敷居が高くなるのが現実だ。南アルプスの玄関口ともいわれる鳳凰三山も例外ではない。ただ、年末年始の山小屋営業の時期だけは登山口まで車でアクセスできる利便性もあり、雪化粧の南アルプスを目指すにはチャンスといえるだろう。
登山口の御座石鉱泉から鳳凰小屋に宿泊し、地蔵岳のピストンがおすすめだ。真っ青な空にそびえる雪化粧のオベリスクはもちろん、凍てつく稜線直下の森歩きもすばらしい。極め付けは赤抜沢ノ頭から眺める3,000m峰。白峰三山の大パノラマは圧巻だ。
アドバイス
鳳凰小屋はこたつで過ごすスタイルのレトロな山小屋。寝る際にダウン上下の持参がおすすめ。小屋までの北面登山道は積雪次第ではラッセルを強いられる、林道の状況と合わせて事前に小屋に確認しておこう。
アクセス
マイカーの場合、中央道韮崎ICより小武川林道経由で御座石鉱泉まで約40分。電車の場合、中央本線韮崎駅よりタクシーで約40分。ともにチェーンがない場合、青木鉱泉分岐でストップとなることも。
レコメンダー 山岳カメラマン 宇佐美博之
ラッセルするたびに自問自答を繰り返す。今年は気になる雪のブナの森へ行くためにスキー移動計画を準備中。滑るより横移動が性に合いそうなんだが……。
西穂独標[岐阜・長野]
ロープウェイで一気に山懐へ
- レベル:中級
- 歩行時間:6時間
北アルプスの冬山を体験するにはもっともポピュラーな山行である。新穂高ロープウェイで標高2,156mへ一気に上がり、通年営業している西穂山荘へ。森のなかは雪が吹きだまっているので、スノーシューやワカンがあると心強い。
西穂山荘で天気を見極め、身支度を整え、頂を目指す。独標へ続く稜線は風を遮るものがないので強風に注意。山頂直下は急な岩場なので慎重に歩こう。
夏道のコースタイムで往復5時間だが、積雪の状況で大幅に遅れることも。もし日帰りで行く場合には余裕を持ったプランニングを。
アドバイス
小屋泊なら多少遅めの出発でも平気だが、日帰りするなら始発9時のロープウェイに乗ろう。下りの最終は16:15西穂高口発。コースタイム通りに歩けば問題ないが、雪が深ければ無理せず西穂山荘に泊まるべし。
アクセス
乗り場の新穂高温泉までは松本と高山のバスターミナルからそれぞれバスが運行している。9時のロープウェイに乗るには新穂高温泉で前泊するか、自家用車でアクセスすること。始発のバスでは間に合わない。
レコメンダー アウトドアライター 森山伸也
新潟県の豪雪地に住むライター。最近はスキーなしの雪山には興味がないほどスキーにどハマりしている。著書に「北緯66.6°ラップランド歩き旅」(本の雑誌社)。
唐松岳[長野]
朝日を背に、広大な尾根を進む
- レベル:中級〜上級
- 歩行時間:8時間
冬の北アルプスでは西穂高岳(独標まで)と並んでアクセスがしやすく、比較的少ない苦労で登れる山がこの唐松岳。体力があれば山頂往復は日帰りでも可能だが、あえて八方池山荘で1泊しよう。
そうすれば早朝のモルゲンロートのなか唐松岳を目指すことができ、土日でも人が少ない時間に静寂な世界を味わえる。西へ向かうルートなので、朝は正面に日が当たり、歩いていても気持ちが良い。
唐松岳山頂は360度の大展望。後立山の稜線まで上がらないと望めない剱岳などを存分に堪能してから帰ろう。
アドバイス
広めの尾根が続くので、視界が悪いときにはルートを誤らないように注意を。下山後の風呂はバスターミナルに近い「八方の湯」が便利。食事はガッツリ食べたい場合は「ちとせ」「おおしも食堂」などがおすすめ。
アクセス
公共交通機関の場合、白馬八方尾根スキー場へは白馬駅(約5分)、または長野駅(約1時間10分)からバスでアクセス可能だが、電車の本数的に長野からのほうがおすすめ。マイカーの場合は八方の駐車場を利用。
レコメンダー ヨシキ&P2 N.M.D事業部長 吉野時男
毎年、冬の休みには雪山登山、スキー、アイスクライミングを詰め込み慌ただしい日々を送るが、ときには低山ハイクも恋しくなる。最近は山の写真にまで遊びを拡大中。
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文◉三田正明、宇佐美博之、森山伸也、編集部 Text by Masaaki Mita, Hiroyuki Usami, Shinya Moriyama, PEAKS
写真◉三田正明、矢島慎一、天野和明、宇佐美博之、西村崚太郎、森山伸也、松本 茜 Photo by Masaaki Mita, Shinichi Yajima, Kazuaki Amano, Hiroyuki Usami, Ryotaro Nishimura, Shinya Moriyama, Akane Matsumoto
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。