筆とまなざし#209「冬の鳳凰三山へ。バラ色に染まる薬師岳の景色(前編)」
成瀬洋平
- 2021年01月13日
三連休に登りに行った南アルプス鳳凰三山での、冬がおりなす高山の美しさ。
心配していた林道に雪はなく、夜叉神峠の登山口に到着するとすでに10台ほどの車が停まっていました。登山口には安全指導員の男性が3名おり、上のほうも雪は少ないのだといいました。寒波とコロナでいつもよりずいぶん登山者も少ないのだそうです。
天候とルート、そしてたまには黙々と歩きたいと思い、三連休の行き先に選んだのは南アルプス鳳凰三山でした。無積雪期に縦走したことはあるものの冬は初めて。ところが、登れど登れど雪はなく、落ち葉を踏み締めて歩くのは晩秋のよう。それでも年末以上の寒波で寒さは厳しく、冬山だけれど雪山ではないなぁなどと思いながらなだらかな尾根を登っていきました。
このルートは白根三山を眺めながら歩ける極上の縦走路だと、個人的には思っています。北岳方面は雪が舞い山頂は見られませんでしたが、奥秩父を思わせる深遠なシラビソの森歩きは心地良い。標高が2,300mほどになってくるとさすがに雪が見られるようになり、今日のキャンプ地である南御室小屋に到着するとすっかり雪山になっていました。風が避けられる木の下にテントを張ることにしました。
テントのなかでくつろいでいるとひとパーティ、ふたパーティとやってきて、外に出ると小さなテント村ができあがっていました。冬の南アルプスは林道歩きなどアプローチが大変だけれど鳳凰三山はアプローチしやすい。危険箇所もなく雪山入門にちょうど良い人気の山なのでしょう。
その日の予報では日中も気温が上がらずマイナス15度前後。暖かい寝袋にシュラフカバー、テントシューズ、ダウンの上下と完全防備に包まって早めに眠りにつきました。
翌朝、3時に起きる予定が少し遅れて目を覚ましました。手早く朝食を済ませ、必要なものだけをバックパックに詰めて出発しました。鳳凰三山の最高峰は2,840mの観音岳。けれどもいちばん特徴的なピークはオベリスクで有名な地蔵岳で、オベリスクに登らないまでもできれば地蔵岳付近まで足を延ばしたいと思っていました。往復でプラス3時間。時間と天気を見て判断することにしました。
トレースのついた樹林帯を登っていくと、木々の影の間から街の夜景が見えました。空はうっすらとオレンジ色の光を帯び、次第にその帯が広がっていきます。そういえば、山岳風景画家の吉田博は山からはるかに下界を見下ろす風景が好きだったといい、この辺りから甲府盆地に広がる雲海を描いた作品を残していたと思い出しました。
花崗岩が点在する稜線に出るとすっきりと晴れた空に朝日が昇り、バラ色の光が薬師岳を染め上げました。眩く光を反射される雪の白さと花崗岩の白さ。それはひさしぶりに見る高山の清純な風景でした。薬師岳小屋でひと休みし、厳しい寒風を受けながら薬師岳への最後のザレ場を登って行きました。
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