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筆とまなざし#211「『恵那山・ふるさとの山を描く』生まれ育った故郷での展覧会」

 生まれ育った故郷で。ふるさとの山を描いた作品を展示ました。

今月17日から開催していた展覧会「恵那山、ふるさとの山を描く」が週末の日曜日に最終日を迎えました。昨年秋に同タイトルのNHKのテレビ番組に出演させていただき、番組のなかで描いた恵那山の原画を中心に、ふるさとの風景やこれまでに描いた山岳風景画を20点ほど展示しました。この展覧会は巡回展で、第一回目の会場は実家の隣にある父の木工家具のショールーム。同じ敷地内には姉夫婦が営むパン屋もあり、パン屋の営業日に合わせて展覧会も開館するかたちとしました。

ぼくが保育園児のころに脱サラし、学習塾をしながら実家をセルフビルドした父は、その後木工家具を制作するようになり、10年ほど前にショールームを作りました。工房の続きで作られたその部屋の壁面は白く、いつだったか映画『ニューシネマパラダイス』をプロジェクターで上映したこともありました。絵を飾る展示スペースとしても十分。けれど、これまで一度も展覧会をしたことはありませんでした。

それにはいくつか理由がありました。そもそも、地元でぼくが山の絵を描いていることを知っている人はほとんどいません。そしていつもの絵は北アルプスなどの山岳風景やクライミング風景。街から離れた、普段は家具が所狭しと置かれた場所に絵を見に来てくれるとは到底思えなかったのです。

テレビ番組が放映されると、地域の方々から「テレビ観たよ!」とたくさんの声をかけていただきました。地元に住む多くの人たちにとって恵那山は特別な山。番組で紹介された恵那山の絵なら、足を運んでくれる人もいるかもしれない。ようやく、この場所で活動する基盤ができた。そう思えたのです。ところが、展覧会が始まる1週間前から岐阜県にも緊急事態宣言が出されました。初めての試み、そしてコロナ禍。果たして訪れてくれる人はいるだろうか……全く未知な状態で展覧会は始まりました。

17日、初日の朝。慌ててキャプションをつけていると、すでに入り口では人の声が聞こえました。蓋を開けてみると、朝から夕方まで人は途絶えることなく、想像もしなかったほどの大盛況でした。友人、知人、保育園のときにお世話になった先生(なんと30年以上ぶりの再会!)、小学校時代の恩師、近所の方々、テレビを観てくださった初めましての方々……。雨にも関わらず、最終日の日曜日も夕方まで多くの方に原画をご覧いただくことができました。いつの間にか、ショールームは人々で溢れる心地よい空間になっていました。

最終日の夕方、人影がなくなってから搬出作業を行ないました。絵を外すと、真っ白い大きな壁面だけが残りました。いつにも増して寂しさを感じました。けれど、同時にどこか清々しさが心のなかに静かに湧き上がってきました。終わりは始まりでもある。この場所で、これからどんなことができるだろう。

さて、「恵那山、ふるさとの山を描く」展は、来月は地区の公民館、3月には中津川市中央公民館へと巡回します。原画には、描き手の魂がそのまま映し出されています。そんな原画を、ぜひご覧ください。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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