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3泊4日の手術入院から帰宅。これから3週間の松葉杖生活が始まる|筆とまなざし#369

初めての入院、手術、車椅子、松葉杖。新たな発見や、不便だからこその大きな気づき。

3泊4日の手術入院を終えて帰宅した。入院も手術も初めての経験。まず感じたのは、医者ってやっぱりすごいということ。比較的珍しいケガということもあって整形外科のなかでも足が専門のクリニックを受診したのだが、切開してみて、先生曰く「フルコース」で処置をしてくれた。再脱臼しにくくするだけでなく、パフォーマンスを上げるための処置も施してくれたそうで、術後に写真を見せながら説明してくれた。失敗が許されない手術なのに、その場でプラスアルファをしてくれるとは。少々遠いけれど、このクリニックにお世話になって正解だった。

手術中に音楽が流れていたことは意外だった。先生の好みなのかちょっと古めのJ-POPが流れていて、「成瀬さん、好きな音楽はありますか?」と聞かれたけれどそのまま星野源や大塚愛を流してもらった。明るい雰囲気なのでそれだけでも不安が軽減される。1時間の予定が「フルコース」のためその倍くらいの時間がかかったのだが、リラックスしてすごせたのはこの音楽のおかげでもあるはず。

それからおどろいたのは麻酔の威力。注射を打って30分ほどで膝から下の感覚が全くなくなった。いつ手術が始まったのかもわからない。腱が通るレールを作るために骨を少し削ったそうで、機械の音と若干振動は感じたが、もちろん全く痛くない。いや、こうまでしなければまともに手術など受けられないだろう。十分な麻酔のない状況での手術を思わず想像してゾッとした。術後、麻酔が切れると痛みを感じた。ロキソニンを飲むと幾分楽になったが、足首の手術だけでこれである。たとえば、山で大きな事故をしたらどれほどの痛みだろうと思うと気が遠くなる。安全登山の大切さを改めて考えさせられた。

ところで、手術に先立つ初診の際に、電車のなかで遠藤周作の『海と毒薬』を読んでいた。太平洋戦争末期に九州の大学附属病院で行なわれたとされる米軍捕虜の生体解剖事件を小説化した作品で、終始どんよりとした空気が流れるこの小説には、手術台の上での生々しい描写がある。どうしてこのタイミングでこの本を手に取ったのかは全くもって謎。手術前にこういうものを読むべきではない。

病院食が美味しかったことはうれしい発見だった。おかずがたくさんついていて、煮物やおひたし、メインの肉や魚の料理もしっかり作られている。さすがに病院、とても健康的な献立だった。仕出し屋さんにお願いしているそうで、毎回の食事が楽しみだった。

車椅子に乗れるようになったことには、単純に新しいスキルを獲得する喜びを感じた。慣れると小回りも効いて非常に使いやすいことがわかった。いっぽうで、それは平坦な場所に限ったことで、バリアフリーの大切さを身をもって感じる機会ともなった。普段何気なく歩いていても車椅子では困難な場所がなんと多いことだろう。電車に乗るにも車掌さんの力添えが必要だったり、自分だけでの行動範囲が大きく制限される。車椅子で生活する人々がいかに大変な思いをしているかを、少しだけでも我がこととして考えられるようになったのはとても大きな気づきだった。トイレに手すりがあるだけでも雲泥の差である。

それからグラスファイバー製のギプス。包帯状の布がカチコチに固まってしっかりと足首を固定している。しかも軽量。これって物作りの素材としてとてもおもしろいのでは? そう思って検索してみると、一般人でも買えることがわかった。水に浸して施行すると数分で固まるらしい。素材として頭の片隅に入れておこう。

病室では気づかなかったが、入院している間に春の嵐が吹き荒れていたようだった。ニュースではあちこちで桜の開花宣言が伝えられている。わずか4日間のうちに季節はめぐり、病院を出ると春の暖かさに包まれた。これまで大きな怪我をしなかったことは幸いだが、図らずも怪我のおかげで新しい経験をすることができた。これから3週間の松葉杖生活である。不便もあるが、それにも少しずつ慣れてくるだろう。自宅を取り囲む森から、鶯の囀りが聞こえている。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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