2024年パリ五輪ロードレースのコースをチェック! 石畳のモンマントル上りはクラシックハンター向き
福光俊介
- 2023年08月03日
2024年のパリ五輪・自転車競技ロードレースは、首都パリの中心部を出発し、近隣の自治体をめぐって再びパリの中心部へと戻るコースが採用されている。男女ともに五輪史上最長距離で争われ、そのルーティングはアップダウンとコーナーという、変化に満ちたものとなっている。
このほど、パリ滞在期間を利用して実際にロードレースで使われるコースを取材した。そこで見たものや想定されるレースの展開をお伝えしよう。
コンセプトは「挑戦的かつすべての人に開かれている」
7月4日に正式発表された五輪ロードレースのコースについて、詳細は先般公開された記事を参照されたい。
今回、筆者は男子レースならびに、男子と共通になる女子レースの中盤以降のコースをチェック。現地の交通事情などの関係から、ロードバイクではなく車と歩きで確かめることとなったが、そこで見たものと感じたことをお伝えする。
実際にトロカデロ広場から出発。エッフェル塔を望む広場を出て、選手たちはイエナ橋を渡ってパリ市街地をパレード。5km進んだところからのリアルスタートとなる。この辺りは普段、昼夜問わずかなりの交通量だが、五輪期間中はどのように規制がなされるのかが興味深いところ。また、この5kmの間にパリの名所をめぐるので、レース中継ではあらゆるランドマークが大きく映し出されることだろう。プロトンとのコントラストはいかに。
パリの街中を抜ける前にリアルスタートが切られる。部分的に石畳の路面であったり、ラウンドアバウト(環状交差点)や中央分離帯が目立つ。序盤のアタック合戦の間は落車やメカトラブル、パンクなどに見舞われる選手が少なからず出てきそうだ。
パリの西側を行くワンウェイルートでは、周辺自治体や住宅街を数多く通過する。前述のとおり、ラウンドアバウトや中央分離帯を選手たちはたびたびかわす必要があるものの、レース当日の沿道は途切れることなく多くの人が駆けつけるに違いない。また、近場の道を行き来するルーティングなので、通なファンであれば何度も沿道に立てるような場所をチョイスして足を運ぶことだろう。そのあたりは、春のクラシックなどで観戦方法を体に染み込ませている熱狂的ファンの見せどころと言えそうだ。
想定されるレース展開については後述するが、コーナーの多さと大小のアップダウン、道幅の変化の多さはレース中の集団内での位置取りにも関係が出てきそう。レース距離が長いことから、早い段階から急激にペースアップすることはそう考えにくいが、それでもポジショニングの良し悪しは消耗度合いを左右し、クラッシュの危険性にもつながる。
ツール・ド・フランスで見るようなひまわり畑、ぶどう畑といった光景はパリのコースには存在せず、ところどころで牧草地帯を走る程度だが、そうしたツールとの違いも大都市での五輪らしくて趣きがあると言えよう。そのときどき通る牧草地帯では風に注意が必要。集団を分断し、レースの流れを大きく変える可能性を秘める。
男子は13カ所、女子は9カ所ある登坂区間は、どれも10%前後の勾配。極端な急坂や距離の長い上りこそないが、やはり道幅の狭いところが多い印象。男女ともにレース終盤で通るシュヴルーズ渓谷は、パリの自然を感じられる緑あふれる区間となる。
コースを見ていて、「これぞ勝負どころ」と感じずにはいられなかったのが、モンマントルだ。テクニカルなコーナーが連続する18.4kmの周回コースを3周する終盤。とりわけ登坂距離1km・平均勾配6.5%のモンマントルの上りは、勾配だけなら対応できる選手が多いかもしれないが、路面の大部分を石畳が占めており、それは北のクラシック並みの粗さ。キリストの天井画で知られるサクレ・クール寺院付近が登坂区間の頂上になるが、そこからの下りも石畳のため、こうした路面にものともしないパワーと、ダウンヒルテクニックが問われることになる。
もっとも、雨が降ろうものなら確実に石畳の路面が滑る。取材当日のパリは雨模様だったが、歩いていても滑ることがあったほど。これがロードバイクのタイヤとあればなおのこと。レースが行われる8月上旬は時期的にも分刻みに天気が変化しやすいため、タイヤのみならずバイクフレームのチョイスなども慎重に行っていかなければならない。
実際にコースをチェックして感じたのは、「人目に多く触れるレースになるであろう」こと。大都市パリに限らず、前述したような周辺自治体や住宅街を走ることで、その地域の住民が気兼ねなく五輪競技を観戦できるメリットは大きい。それでいて、男子273km・女子158kmの五輪史上最長かつタフなレースコース。これはつまり、パリ五輪の理念である「挑戦的かつすべての人に開かれている」をそのまま表していると言って良いだろう。
ちなみに、筆者がおすすめする観戦ポイントは、スタート・フィニッシュ地のトロカデロ広場か、最大の勝負どころとなるであろうモンマントル……なかでもサクレ・クール寺院付近(有料観客席の設置や大会の観戦ルールなどは現時点で考慮せず)。どちらもレースのハイライトとなる場であることは間違いない。
パリのコースで活躍するのは? どこよりも早い金メダル候補ピックアップ
これだけのタフなコースだと誰が活躍するか予想しにくい印象を抱きそうなものだが、実際のコースを見た筆者としては、逆に予想がしやすいと考えている。
すでに発表となっているロードレース出場枠の振り分け。大前提として、1カ国あたりの出走枠は最大でも「4」と、ロード世界選手権と比べると半数。それも5カ国のみで、あとは国別順位や世界選手権、大陸選手権などの結果をもとに「3」「2」「1」と決まっていく。そして、出場ライダーは男女ともに90人と、UCIワールドツアーや世界選手権よりもはるかに少ない。
こうした条件から、レース全体通してコントロールできる国はそうそうないものと思われる(長く巡航できるタイプの選手が代表入りすれば別だが)。となると、より一層個の力が反映されやすいレースになるとみている。
また、ワンウェイ区間が男子225km、女子110kmあるが、フィニッシュまで約50km残した状態で勝負に出ることはかなりの賭けになる。東京五輪女子ロードを勝ったアナ・キーゼンホファー(オーストリア)のようなケースは稀である。
その意味では、レースが大きく動くのはモンマントルの周回に入ってからとなりそう。ロンド・ファン・フラーンデレンのような、石畳と急坂がミックスしたコースで力を発揮できる選手がパリでも主役を争うことになるのではないか(ロンドとレース距離も似ている)。
パリ五輪関係者やフランス国民はジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)に大きな期待を寄せることだろう。実際、アラフィリップを勝たせるためのコースをセッティングしたのでは……と思うところも大きい。だが、本番では別の選手がトップを争うと考えている。
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男女共通の平坦コースで争われる個人タイムトライアル(32.4km)は、男子ならフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)やシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)といったスペシャリストに、レムコやワウトらも交えてのメダル争いに。女子はクロエ・ダイガート(キャニオン・スラム レーシング、アメリカ)やグレース・ブラウン(FDJ・スエズ、オーストラリア)、ローセルあたりがメダルを争いそうだ。
パリ五輪 自転車競技ロードレース スケジュール
7月27日(土)
14:30〜16:00 女子個人タイムトライアル
16:30〜18:00 男子個人タイムトライアル
8月3日(土)
11:00〜18:15 男子ロードレース
8月4日(日)
14:00〜18:45 女子ロードレース
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