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雪平鍋は、なぜここまで愛されるのか? その魅力を徹底解明

出汁を引く、煮るなど日本料理に欠かせない重要な役割を担ってきた鍋。なかでも旧くから愛されてきた雪平鍋は、日本固有の調理器具として知られる。その魅力はなんといっても使い方に縛りのない万能性にあった。

銅雪平の急先鋒を訪ねる

東京の下町として知られ、さまざまな工場が稼働する足立区にて親子4代、80年以上にも渡り、雪平鍋を作り続けている中村銅器製作所。創業時から変わらず手打ちされ、プロの料理人からも愛されている。

「行平鍋」五寸/六寸/七寸/八寸
一尺の10分の1のサイズが一寸(約3.03cm)。寸表記で製作される中村銅器製作所の雪平鍋は直径八寸までのサイズも作られている。主に使いやすいのは直径18cmの六寸(写真)だろう。

鍋の表面を打ち出し、全体的に打ち柄の入った雪平鍋。現在、火を使わないIHコンロなどの急速な普及もあり、また調理の際、鍋に料理が焦げ付かないことを謳ったテフロン加工が施された鍋などが、調理鍋の台頭を成し、一般家庭で見ることも少なくなった。むしろ雪平鍋自体の存在さえ知らないという若者もいることだろう。ひと昔前、30代、40代以上の年齢の人であれば、実家の台所にひとつやふたつはあったことを思い出すはず。それほどまでに、日本人の台所に必要不可欠な鍋で、旧くから庶民に愛されてきた料理器具のひとつ。もちろん、現在でもプロの料理人を始め、家庭においても雪平鍋の愛用者は、あとを絶たない。

「雪平鍋の最大の魅力は、汎用性の高さ、万能性にあります。煮物、煮付け、素材の湯通しだけでなく、湯を沸かすだけでもこの鍋を使います。というのも、鍋の素材に熱伝導の良いアルミや銅といった金属を使用しているため、加熱も早く調理に使いやすいのです。それが雪平鍋の最大の利点です」

中村銅器製作所 代表 中村恵一さん。料理用金物製造を専業とし、創業80年を誇る中村銅器製作所の3代目。祖父、父が銅鍋を打つ姿を幼少期から眺め、手作り鍋を継承。現在、4代目となる息子たちに受け継がれていく。

東京・足立区で料理用金物製造を専業とする中村恵一氏。彼自身、鍋製作を始め30余年、なんと工場自体は、祖父、父の代から数えると創業80年を超えるという鍋ひと筋の老舗工場だ。この工場で作られる鍋は、大きく分けて銅製、アルミ製の2種。雪平鍋を始め、サイズの大きな寸胴、天ぷら鍋、フライパン、親子鍋、卵焼き鍋など、さまざまな種類の鍋が作られている。

おもにプロの職人たちに愛用されていると聞く。雪平鍋の大きな特徴である鍋全体に施された打ち込みの模様。これは、鍋自体の強度を上げるためと熱伝導の効率をより上げるために工夫された日本の伝統的な手法だ。

中村銅器製作所の「行平鍋」に使用される銅板は、脱酸素材と呼ばれる厚さ1.5ミリの純銅の板。熱伝導が早く調理器具に適した素材としてプロも愛用する。使うほどに見た目が色濃く味わい深くなる。

「昔は雪平鍋の模様をすべて金槌で打ち込んでいたのですが、いまは打ち込みマシンを使用することで均一な力で打つことができています。よく見かける大量生産された雪平鍋は、一度の打ち込みで、雪平の柄がすべて形成されるもの。いわゆる鍋のデザインです。そもそも一打ずつ打ち込むことによって、金属自体の強度が上がる特性なので、専用のマシンを使用しながらも一打ずつ打ち込んでいます」

はじめに底打ちと呼ばれる底面の打ち込みを施し、打ち込みによって湾曲してしまった銅板に一度プレスを掛け平らな状態に戻す。
その後、鍋の形に形成し、銅をやわらかくするために火入れをする。
さらにサイドをハンマーで均一に打ち込み、ハンドル部分の金具を取り付けたら、鍋の内側に錫を溶かしまんべんなくコーティングする。

たしかに鍋をよく見てみると縁部分はとくに細かな打ち込みとなっている。アルミや銅といった熱伝導の良い素材のウィークポイントは素材自体がやわらかいこと。そのため、打ち込んで強度を増す必要があるわけだ。雪平鍋の模様は単なる柄ではなく、そんな理屈があったのだ。また、中村氏が手掛ける銅鍋の内側には、仕上げに錫が焼き付けてある。それは銅自体の腐食を防ぐため。

「雪平鍋製作において、最後の難関が錫の焼き付けです。メッキではなく、溶かした錫をひとつずつ手作業でムラにならないよう均一に焼き付けていくのは至難の業。最後まで気を抜くことはできません」

仕上げにグラインダーで磨きハンドルを付けるという大まかな流れ。

 

中村銅器製作所
住所/東京都足立区梅田 3-19-15
TEL/03-3848-0011
nakamuradouki.com/

雪平偏愛料理人ファイル

古くから存在する雪平鍋は、当然のことながらプロの現場でも活躍している。ここでは、雪平鍋に並々ならぬこだわりと愛着を持つ3人の料理人に愛用鍋と、雪平鍋への想い、そして雪平鍋を使った料理を教えてもらった。

『フレンチ割烹ドミニク・コルビ』シェフ ドミニク・コルビ

「見た目にも美しく取っ手が熱くならない優れた鍋ですね」

フレンチと和の融合で魅せる巨匠は煮炊きに活用
「10年以上前に祇園の割烹で目にしたのが雪平鍋との初めての出合いです」。2019年に舞台を新たに再スタートさせるも日仏のフュージョンを提唱し続けるドミニク・コルビ氏。

「取っ手が熱くならない雪平は仕上げの調理に最適。たとえばこの鯛の出汁炊き。昆布と椎茸の出汁で鯛を煮るこの料理は、出汁は別の大鍋でとっておいて、雪平鍋は野菜とともに鯛を炊く仕上げに使います。雪平は和の雰囲気があり、なにより美しい」

『日本料理 一凛』主人 橋本幹造

「熱しやすく冷めやすい難しい鍋です」

日本料理の賢人が語る、引き算に欠かせない雪平
京都有次の雪平を使う橋本氏。

「当店で使っている雪平は長いもので15年ものです。職人の手で造られた雪平鍋は、同じように見えて熱の電動率が異なります。また雪平自体が熱しやすく、冷めやすいため、熟知するまでには時間が必要です。雪平鍋が欠かせない料理として、鯛のあら焚きを作りました。水、煮切り酒、濃口醤油、みりんに上白糖という、日本料理ならではの引き算の料理を作る上では雪平鍋は欠かせない道具だと思います」

『namida』店主 田嶋善文

「パッと取り出していろいろできる。それが雪平の魅力」

取り回しと熱伝導率……下北沢の料理人は雪平を称える
下北沢で枠にとらわれない料理を提供する田嶋氏にとって雪平鍋は “フレキシブルな鍋” であるという。

「熱伝導が良いアルミ製で、取っ手が付いてるので、この『南禅寺蒸し 銀あんかけ』に用いるあんを温めたり、出汁を温めたりする時にとても重宝しています。銀あんは出汁にみりんと塩、ほんの少し薄口醤油で味付けしてあります。そこに葛でトロミを付ければ完成。ご自宅ではさっと味噌汁を作ったり、卵とじに活躍すると思います」

アノニマスデザインという雪平鍋解釈

工業製品のそれとは一線を画す雪平鍋がある。誕生の地は大阪・阿倍野区。そこで生み出されているのはひとつとして同じものがない雪平鍋だ。雪平鍋の概念が変わる有機的なプロダクトに迫る。

「Denmark Yukihira」北欧のミルクパンを想起させる特有なフォルムを持つ小鍋は、アルミ製。チーク材を使ったスマートな取っ手とのバランスも秀逸である。1万6200円(H58×φ136mm(外径)、140g)

「Denmark Yukihira」と名付けられた小鍋。北欧の台所に馴染むような雪平鍋というコンセプトでこの鍋を生み出したのは大阪に拠点を置く鍛金師・稲垣大氏である。プレス機で製造される量産品と比較することがはばかれるほどに、この雪平鍋の表情には目を奪われる。

「作品を造っている感覚は薄いです。生粋の職人とは言えない私が日常の道具を作り始めた結果、意匠だけを優先するのではなく、まず素材と向き合い、打ち込んでいくなかで新たな商品が生まれてくるのです」

「アルミ四角皿(1944円)」と「真鍮豆皿(1944円)」
「真鍮おたま(6480円)」

稲垣氏にモノづくりを如何にとらえているか尋ねた。

「3D技術は発達しましたが、 ゲームやスマートフォンなど二次元が台頭する今、便利ではなかった時代の関わりや技術を後世に残したいと考えています。 高度経済成長を経て、急ぎ過ぎた日本の落し物を、今の、そしてこれからの人々に受け取ってもらうために仕事をしていきたいですね」

言葉にすると伝わり辛い稲垣氏が語る現代の平面性と失われた立体感。だが、Denmark Yukihiraの鍋肌は、氏が何を言わんとしているかを明確に語りかけてくれるのであった。

 

稲垣 大さん
1970年大阪生まれ。金沢美術工芸大学 産業美術学科工芸デザイン鍛金専攻。在学中に柳宗理氏の講義に影響される。その後、鍛金職人、寺地茂氏に師事。日用品としての鍛金を学ぶ。2003年、工房『Dine Factory』を開店。

Dine Factory
住所/大阪市阿倍野区北畠1-1-3
TEL/090-8989-3035
営業/11:00〜19:00
休み/不定休
http://dine-factory.com/

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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