オルコ渓谷、ロカーナ村。一年ぶりにこの谷に帰ってきた|筆とまなざし#345
成瀬洋平
- 2023年09月29日
今年は「Greenspit」一本に照準を絞って再びトライ。
ミラノマルペンサ空港から電車でミラノ中央駅へ。ちょっとトラブルがありながらもなんとかレンタカーを借り、昨年ロープを預けておいた友人宅へ向かって一年ぶりの再会。ロープをピックアップし、買い出しをしながらオルコ渓谷のロカーナ村のアパートにたどり着いたのは20時をすぎたころだった。温かな街灯に照らされた石畳の古い街並み。筋向いのパブは今日は閉まっている。去年と同じアパートは勝手もわかっている。時刻を告げる教会の鐘が懐かしい。一年ぶりにこの谷に帰ってきた。
イタリア北西部、アルプス山脈の端に位置するオルコ渓谷。谷沿いに大小さまざまな岩が点在し、多くのクライミングルートが築かれている。花崗岩ということだが、日本にある花崗岩とは少し違い荒い結晶が重なったような岩質である。メインエリアのSergentには標高差300mほどの壁があるとはいえ、岩場自体はそれほど大きいわけではないのだが、ここが貴重なのは石灰岩の多いヨーロッパでは貴重なクラックエリアだからである。そしてそれ以上に、谷に点在する素朴な村と牧歌的な風景がオルコの魅力である。
▼一年前、はじめてこの地を訪れたときのエピソード。
この小さく静かな谷を世界的に有名にしているのが「Greenspit」というルーフクラックである。昨年少しトライしたものの完登には至らず、今年は、この一本に照準を絞って再びトライしてみたいと再訪したのだった。「Greenspit」のある岩は、ロカーナから車で10分ほど谷を遡ったロゾネ村にある。村に着いた翌日、早速訪れた。
昨年は藪のなかのアプローチを進んだが、今年は灌木が切られてペンキでマーキングがされていてとても歩きやすくなっていた。見覚えのある岩を越えると視界が開けた。一年ぶりにルーフクラックとの再会だった。記憶よりも短く感じた。実際、このクラックの全長は13mほどと短い。けれど圧倒的な傾斜のなかにムーブが詰まっており、トライしてみると長く感じるのである。
北面に位置するこのクラックは乾きが悪く、スタート部分はびしゃびしゃに濡れていた。昼前から雨が降り出した。雨のなかでムーブの練習をすると、昨年なかなかうまくいかなかった箇所に良いムーブを発見した。
翌日から2日間雨が降り続いた。フリースがほしいくらいの寒さで、残暑の厳しい日本に慣れた体には少々堪える。外国に来たという感じがしないのは、昨年3週間ほどをこの村で過ごしたからだろう。数日経つとここでの暮らしが少しずつ日常になっていくのを感じる。天気予報を見ると3日後からは晴れマークが並んでいる。さあ、今年はどんなイタリア滞在になるだろうか。
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